表紙: 鹿児島県(1993年 自然遺産)
EOS R6 Mark II RF70-200mm F4 L IS USM 1/125秒 f8 ISO800
今年の世界遺産の撮影は、近年の地球規模の自然環境変動に起因する不安定な天候に苦労し、多くの変化を感じる一年であった。
撮影を開始した春、「紀伊山地の霊場と参詣道」の熊野本宮大社大斎原にある樹齢数百年を超す枝垂れ桜の撮影に赴くと、そこにその老木の姿はなかった。冬の間に強風によって折れてしまったとのことだった。その後に訪れた白神山地では、ブナ林の長老「400年ブナ」が、記録的な大雪の結果、その重みに耐えられずに倒れてしまっていた。数百年にわたって続いてきた命の終わりの瞬間に、連続して立ち会うことになるとは思ってもみなかった。
そのためだろうか、今年の撮影は生命の存在を強く意識する時間であった。西表島のサガリバナが咲く瞬間の甘い匂い。白神山地のブナの新緑が放つ瑞々しい輝き。海の水を伝わって聞こえてくるクジラの親子が歌う命の歌の響き。それらは自然の生命力が目に見える形で発露する瞬間であり、そのひとつひとつに向き合い、撮影を行った。
旅の最後、私は冬の屋久島にいた。撮影機材と一週間分の食料、テントなどを背負い、大寒波による雪に覆われた山を登った。目当ての場所に辿り着くと、あたりは厚い雲に覆われ、何も見えなかった。撮影最終日、それまで山を覆っていた雲が風に流され、突然視界が開けた。そして正面に山の神のような威厳を備えた障子岳の山頂が、夕空を背景に現れた。一通り撮影を終えると、それを待っていたかのように雲が山を覆い、視界は再び閉ざされた。
すべての撮影を終え、山を降りる日。湿った森の匂いが漂い、あたりは生命の息吹に満ちていた。それはまるで自然に抱かれているような感覚であり、この一年の撮影で過ごした日々を象徴するような時間であった。
写真家竹沢 うるま
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竹沢 うるま(たけざわ うるま)プロフィール
1977年生まれ。写真家。
同志社大学法学部法律学科卒業。大阪芸術大学客員教授。
在学中、アメリカ一年滞在し、モノクロの現像所でアルバイトをしながら独学で写真を学ぶ。帰国後、ダイビング雑誌のスタッフフォトグラファーとして水中撮影を専門とし、2004年よりフリーランスとなり、写真家としての活動を本格的に開始。
2010年〜2012年にかけて、1021日103カ国を巡る旅を敢行し、写真集「Walkabout」と対になる旅行記「The Songlines」を発表。2014年には第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞受賞。2015年に開催されたニューヨークでの個展は多くのメディアに取り上げられ現地で評価されるなど、国内外で写真集や写真展を通じて精力的に作品発表をしている。
主なテーマは「大地」。そこには大地の一部として存在する「人間」も含まれる。近著にチベット文化圏をテーマとした写真集「Kor La」(小学館)や「旅情熱帯夜」(実業之日本社)がある。
「うるま」とは沖縄の言葉でサンゴの島を意味し、写真を始めたきっかけが沖縄の海との出会いだったことに由来する。
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