まず、個人事業主が事業を営むうえで発行・管理が必要な取引書類について、ご紹介します。
契約書とは、取引を開始する際に発注側と請負側の間で交わす書類であり、業務上において双方が合意した内容を明文化したものです。契約書には業務の依頼内容をはじめ、お互いの権利関係や瑕疵担保(かしたんぽ)などに関する事項が記載されています。
将来的に起こり得るトラブルを未然に防ぐため、一般的に以下のような項目を記載します。記載事項は、業務内容や業種によって異なる部分があります。
業務上知り得た情報を外部に漏らさないための守秘義務に関しては、別途「NDA(秘密保持契約書)」という書類を交わすこともあります。
NDAを別途締結する理由は、仕事の依頼が成立する前の見積もり段階で、発注側の社内情報をヒアリングすることもあるからです。そのような場合、先行してNDAを締結することがあります。
見積書とは、取引先から商品やサービスの問い合わせを受けた際、提供する商品やサービスの内容、数量、金額、納期などについて、想定される条件をもとに金額を見積もり、取引先へ提出する書類を指します。
一般的に見積書に記載する項目は以下です。
見積書の保管期限は、個人事業主の場合は5年間です(法人の場合は7年)。発行日からではなく、該当する決算期の申告期限の翌日から5年となっています。
納品書は、納品やサービスの実施・提供が完了した段階で発行する書類を指します。有形物であればその品物に添付して渡し、サービスなどの無形物を提供した場合には別途渡します。一般的に納品書へ記載する項目は以下です。
納品書の保管期限は、見積書と同様、該当する決算期の申告期限の日付から5年です。
請求書は、納品後に取引先の締め日までに請求情報を記載のうえ提出する書類です。納品しても請求書を発行しなければ先方に支払い義務が発生しないため、請求書は取引先の締め日までに必ず発行するようにしてください。
締め日は取引先により異なるため、事前に確認するようにしましょう。
一般的に請求書に記載する項目は以下です。
請求書の保管期限は、青色申告をしている事業主の場合、該当する決算期の申告期限の翌日から7年間、白色申告をしている事業主の場合は5年間です。
個人事業主の中には税理士などに経理業務を任せっぱなしの方もいるかもしれません。しかし、経理業務は本業と同じくらい重要な業務です。
経理とは金銭の動きを明確に数値化し管理することです。それによって、事業の財務状況(経営状況)を把握することが可能になります。
個人事業主の場合、経理を行う目的は主に、「財務状況の把握」と「納税額の計算」の2つです。従業員を雇用している場合は、上記に加えて「給与計算」も加わります。
個人事業主は自分自身で事業を営み、生計をたてています。そのため、財務状況を把握することは非常に重要です。
日々の現金管理に始まり、毎月の売上額や支出額の管理、請求した金額が期日までに振り込まれているかどうかの入金管理など、やるべきことはたくさんあります。
個人事業主の場合、1年あたりの所得額から納税額を計算し、納付時期に納めます。事業に関係のある税金は、所得税・消費税(売上が1,000万円未満の場合は不要)・事業税・償却資産税の4種類です。
経理の仕事は、期間に応じて3種類の業務に分けられます。1日ごとに行う「日次業務」、1カ月ごとに行う「月次業務」、そして1年単位で行う「年次業務」です。
以下の仕事が日次業務にあたります。
日々のお金の動向を管理する日次業務でもっとも大切になるのが、現金出納管理と売掛金および買掛金の管理です。会社員時代は「通帳の記帳はあまりしていなかった」という方も、入金口座の通帳は必ず記帳して記録を残しておく必要があります。
主に請求と支払いに関する業務が中心となります。
上記のほか、従業員を雇用している個人事業主の場合、「従業員の給与計算と支払い」が加わります。
月次決算や予算実績の管理を行わない個人事業主の方も少なくありません。
しかし、青色申告を行う場合にありがちなパターンが、申告直前になり慌てて帳簿をつけることによる、計算ミスや記載ミスです。
納税額に関わるため、月次業務は毎月きちんと行うことをおすすめします。
個人事業主にとっての年次業務は、毎年3月に行う確定申告業務を指します。
また、固定資産を計上しているなら、固定資産税の償却資産を毎年1月に申告する必要があります。
3月に行う確定申告は前年の1月から12月までの収入が対象となり、決算は12月です。12月末で年間の会計を一区切りにして、事業の成績を決算書にまとめましょう。従業員を雇っている個人事業主の場合には、その従業員の年末調整も年次業務のひとつとなります。
個人事業主は自分で税金を納める必要があります。
納める税金として、事業に関係のある税金は「所得税」「個人事業税」「消費税」「償却資産税」の4種があります。それぞれ、税金を申告する時期や申告の方法は異なります。
前年の1〜12月の間に得た所得に対して、国が課す税金です。年間の所得を計算し、次の年の2月16日〜3月15日(その年によって日付が変わる場合も有り)の期間中に税務署へ納めます。2013年より、東日本大震災の復興に当てる財源確保を目的とした「復興特別所得税」も所得税に上乗せされています。
会社員の場合は給与から所得税が差し引かれるため自分で納税する必要はありませんが、個人事業主は自分で「事業所得」として納税する必要があります。
所得税は納付書に金額を記入して所轄の税務署または金融機関で支払うか、口座振替、電子納税などで支払う方法があります。納付書は税務署でもらうことができます。
個人事業税は、個人の事業活動に対して課される地方税です。3月に所得税の確定申告を行っていれば、その年の8月頃に自治体から個人事業税の納税通知書が届きます。通知書に記載されている納付期限までに、金融機関や役所などで納付してください。
個人事業は第1種事業・第2種事業・第3種事業の3つに分類され、税率が異なります。開業届を出すと税務署から事業内容を問い合わせる書類が届きますので、その書類に記入して返送すると、記入内容をもとに税率が決まります。
消費税は、商品の購入やサービスを販売した際に、購入者が負担する税金です。
事業主は、購入者より預かっている消費税から、経費などの支払いで既に納めた消費税を差し引いて納税します。
たとえば、売上金に含まれる消費税が120万円、経費に含まれる消費税が70万円であれば、120万円−70万円で50万円が納税額になります。
ただし、開業してから2年間は消費税を免除されますので、納税の義務はありません。また、開業から2年を経過していても、前々年の売上金が税込で1,000万円に満たない事業主も免税となります。
償却資産税とは固定資産税の一種で、事業で使用しており、なおかつ減価償却の対象となる資産にかかる税金です。構築物(看板や借りテナントの内装など)や機械設備、車や備品などが対象となります。
自治体から届く「償却資産申告書」に資産の状況を記入のうえ申告を行えば、自治体が税額を算出して後日納税通知がされます。申告の期限はその年の1月31日までとなります。通知書に記載された納付期限までに金融機関や役所で納めます。
本業と経理業務のほかにも、必要に応じて従業員の雇用や、宣伝・告知活動を行う必要があります。
事業規模の拡大や業務量によって、従業員を雇用する必要が生じるかもしれません。その場合、雇用に伴う義務も発生します。
従業員を募集するポイントについて、詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
人材の確保はどうする?個人事業主が従業員を募集するポイント
従業員を雇用する際の労働条件などについて、詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
就業規則の作成は必要?個人事業主が従業員を雇用する場合のルール
個人事業主は、自分で取引先を開拓する必要があります。飲食店など店舗系の場合も同様に、集客する方法を考えなくてはいけません。
しかし、新聞広告や折り込みチラシ、電話帳への登録、屋外広告、インターネット広告などの広告媒体への出稿、パンフレットの作成をすると思った以上に費用がかかります。
開業したばかりの頃は、事業の宣伝・告知活動にあまり費用をかけられないことが多いでしょう。比較的実施しやすい宣伝・告知活動は、Webサイトやブログの開設、SNSの利用です。