スモールビジネスのいろは 〜開業から事業拡大までのノウハウ〜

新規開業の流れは?開業前の資金準備や開業届と法人登記の違い

新規開業の流れは? サラリーマンの方の中には、会社組織でキャリアを形成するのではなく、自分の能力やアイデアを生かして、個人事業を始めたいと考えている方がいらっしゃるのではないでしょうか。
個人事業主として開業することは誰にでも可能です。しかし、ビジネスを成功させるためには、正しい知識を身につけてから開業する必要があります。
例えば開業前には、事業計画の立案や資金の調達、必要な許認可の確認などが欠かせません。また開業後は、経理や税金の知識も求められます。
これらの知識を身につけずに開業してしまうと、予期せぬトラブルに巻き込まれてしまうかもしれません。
そこで今回は、個人事業主として開業を考えている方に向けて、各業種に共通して必要な開業前の準備についてご紹介します。

個人事業とは?法人との違いを知ろう

個人事業とは、法人を設立せず個人が主体となり行う事業です。
起業する際は、個人事業か法人のどちらかを選択することになるため、それぞれの違いについて知っておく必要があります。
ここでは個人事業と法人の違いについて、「開業手続き」「設立費用」「事業内容の追加・変更」「事業の廃業」「税金の負担」「社会的信用度」の6点を比較してご紹介します。

開業手続き

個人事業の場合、開業届を税務署に提出するだけで開業手続きを済ませられます。一方、法人として起業する場合は、定款 の作成など多くの法的な手続きが必要です。
なお定款とは、会社を運営するために必要な基本的な規則です。法人として起業した場合は、定款で定めた規則に基づいて運営することになります。

設立費用

個人事業の場合、開業する際に設立費用を用意する必要がありません。一方、法人の場合は、定款に貼る収入印紙代や、定款の承認手数料や標本手数料、登記免許税などの費用が必要で 合計25万円前後 となります。

事業内容の追加・変更

個人事業の場合、事業の追加・変更が自由にできます。一方、株式会社の場合、事業内容の追加・変更をするためには定款の変更が必要です。

事業の廃業

個人事業の場合、税務署へ届出を提出するだけでいつでも廃業できます。一方、株式会社の場合、廃業するためには多くの手続きが必要です。

税金の負担

個人事業と法人では所得にかかる税率が異なります。現行の税制度では、所得が低いあいだは個人事業のほうが税金の負担が少なくて済みます。しかし、年間所得が700万円以上になる場合は、法人のほうが税負担は軽くなります。

社会的信用度

社会的信用度は、個人事業より法人のほうが高いとされています。法人で起業する場合、会社法に基づき定款を作成するなど多くの法的手続きを行うことになるため、社会的信用度が高くなるのです。企業相手に取引を行ったり銀行から融資を受けたりする場合、社会的信用度が高い法人のほうが有利といえます。

事業計画を立てる

事業計画を立てる 事業計画とは、事業を成功させるために必要な計画や目標を指します。
事業計画を立てることで、事業を軌道に乗せるための指針ができます。また、事業の全体像を客観的に把握できるため、ビジネス上の課題の発見にもつながるでしょう。
なお事業計画は、「事業内容」と「資金計画」の2つに分けて考えることがポイントです。

事業内容

事業内容は5W1Hを意識して、「なぜ(Why)事業を始めるのか」「いつ(When)始めるのか」「どこで(Where)始めるのか」「何(What)を売るのか」「誰(Who)に売るのか」「どのように(How)売るのか」を具体的に考えます。商品が売れるまでの流れを明確にすることで、事業運営に何が足りていないのかを気づくことにつながるでしょう。

資金計画

資金計画では「運転資金」「開業準備資金」「生活費」 を計算し、開業時に必要となる費用を把握します。これらの費用を自己資金でまかなえない場合は、政府系金融機関や国・地方自治体の融資制度の利用を検討します。 民間金融機関でも融資を行っていますが、個人事業主に担保や保証人、資金力がない場合は借り入れが難しいため、まずは政府系金融機関や国・地方自治体の利用を検討すると良いでしょう。
また資金計画では、売上と経費を予想して損益計算書 を作り、どれくらいの利益が出るのかシミュレーションしておくことも重要です。

事業計画書について詳しく知りたい方へ

事業計画書について詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
「事業計画書とは?新規開業で事業計画書を作成する重要性」

開業資金を準備する

開業資金を準備する 自己資金の総額が開業資金を下回った場合、開業資金を借り入れすることになります。
ここでは、個人事業における代表的な借入先についてご紹介します。

政府系金融機関

個人事業の開業資金は、日本政策金融公庫(日本公庫)や商工組合中央公庫(商工中金)などの政府系金融機関から借り入れができます。政府系金融機関は、民間金融機関に比べて融資を受けやすいことが特徴です。また政府系金融機関は、個人事業として新規開業する方に向けて、さまざまな融資プランを用意しています。

国・地方自治体

国・地方自治体の制度融資を利用することで、金融機関より融資を受けられます。制度融資とは、自治体と金融機関、信用保証協会が連携して融資を行う制度で、連帯保証人を用意できない個人事業主の方でも、基本的には融資を受けられることが特徴です。

民間金融機関

開業資金は、都市銀行や地方銀行、信用金庫、信用組合などの民間金融機関から借り入れることが可能です。ただし、民間金融機関を利用する場合、事業主の資金力と信頼性が厳しく評価されます。そのため、開業したての個人事業主の方が担保や保障人を用意できない場合、民間金融機関より融資を受けることは難しいといえます。

家族や友人

開業資金は、家族や友人から借り入れるという選択肢もあります。ただし、家族や友人から借り入れる場合は脱税を疑われないように、家族や友人の口座に毎月返済金額を振り込むなど、外部からも返済実績が確認できるようにしておくことがポイントです。また、口頭での貸借の約束は、トラブルにつながる恐れがあります。そのため、家族や友人から借り入れする場合は借用書を作り、お金の貸し借りがあったことを証明できるようにしておきましょう。

開業資金について詳しく知りたい方へ

開業資金の借入について詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
開業資金の借入はできる?開業資金の融資について

開業に必要な資格と許認可を確認する

開業に必要な資格と許認可を確認する 個人事業として開業するためには、資格や許認可が必要な業種があります。例えば、美容室を開業する場合は、美容師免許を取得し、保健所への届出が必要です。飲食店を開業する場合は、食品衛生責任者の資格と保健所から営業許可証を取得する必要があります。

万が一、許認可を未取得のまま開業した場合は、業務停止や罰金などのペナルティーが課されます。そのため開業前には、必要な許認可について確認するようにしましょう。
ここでは、開業に必要な資格と許認可についてご紹介します。

開業に必要な資格とは?

資格には、国が運営する「国家資格」、公益法人が運営する「公的資格」、民間組織が運営する「民間資格」の3種類があります。これらの資格には、取得しないと開業できない資格や、未取得でも開業できる資格があります。
例えば、医師や税理士、美容師などは資格を取得していないと開業できません。一方、調理師免許は未取得でも飲食店を開業することが可能です。

個人事業に必要な許認可とは?

個人事業では業種により、行政機関に対して手続きを行い、許認可を取得する必要があります。許認可には「届出」「登録」「認可」「許可」「免許」の5つがあり、この順に手続きの難易度が高くなっていきます。

・届出

届出とは、所定の書類に必要事項を記入して、行政機関に届け出るだけで事業が始められるというものです。届出が必要な業種には、理容業や美容業、マッサージ業などが挙げられます。

・登録

登録とは、行政機関に届け出て、名簿に登録されることで事業を開始できるというものです。建築士事務所や電気工事業の場合は、登録が必要です。

・認可

認可とは、行政機関に届け出て、一定の要件を満たしている場合に事業を開始できるというものです。警備関係の会社や保育所を開業する場合は、認可がないと営業できません。

・許可

許可とは、行政機関に届け出て一定の要件を満たしているか審査が行われ、審査に通過した場合に開業できるというものです。許可が必要な業種には、飲食店や旅館業などが挙げられます。

・免許

免許も許認可の1つで、事業を始めるためには免許の取得が必要な業種があります。例えば、ネットショップを開業して輸入した酒類や地酒を販売する場合は、「通信販売酒類小売業免許」が必要です。

開業届と法人登記の違いは?事業開始に必要な届出

個人事業として開業する場合は、行政機関に開業届を提出するだけで事業が始められます。例えば、事業開始日から1カ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に、「事業開始等申告書」を都道府県税事務所に提出します。いずれの書類も書面への簡単な記入のみです 。
一方、株式会社として開業する場合は、「法人登記」が必要です。法人登記では、会社法に基づき会社運営の指針となる「定款」を作成するなど、多くの法的な手続きを行うことになります。そのため開業手続きは、株式会社よりも個人事業のほうが簡単といえるでしょう。

なお、個人事業であっても人を採用する場合は、「給与支払事務所等の開設届出書」や「労働保険関係成立届」などの書類の提出が必要です。また、青色申告で所得税を申告する場合、「所得税の青色申告承認申請書」(事業を開始した日から2カ月以内)も提出します。

開業前には、これらの必要な書類がすべて揃っているか確認するようにしましょう。

開業届の書き方や提出するタイミングについて詳しく知りたい方へ

開業届の書き方や税務署に提出するタイミングについて詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
開業届の書き方や税務署に提出するタイミングは?

営業開始に向けて準備する

営業開始に向けて準備する 営業を開始するためには、営業ルールの作成や、事業運営に最低限必要な備品の購入をする必要があります。
ここでは、営業前に決めておいたほうが良い営業ルールや、営業前に準備しておきたい備品についてご紹介します。

営業ルールを決める

事業を安定して継続させるためには、開業前に営業ルールを決めておいたほうが良いでしょう。営業ルールでは、以下のような事項について決めていきます。

・営業時間

「9時00分〜17時30分まで」と分単位で営業時間を決めます。飲食店の場合は、ラストーオーダーの時間まで決めておきましょう。

・休日・休暇

休日は「毎週日曜日」「隔週土曜日」と曜日を基準に決めます。なお休暇も、「夏季休暇5日」「年末年始休暇5日」など決めておきましょう。

・価格

商品の価格表や、サービスの料金体系を提示できるようにしておきましょう。

・支払い

請求書の締め日や支払日、支払い方法を決めます。支払い関係のルールは、頻繁に変更すると信頼低下につながるため開業前に決めておきましょう。

事業運営のために必要な備品を購入する

事業運営において必要な備品は業種により異なりますが、どのような業種でも最低限揃えておきたい備品があります。
ここでは、あらゆる業種に共通して当てはまる、開業前に準備しておいたほうが良い備品についてご紹介します。

・名刺

名刺はお客さまや取引先に事業の内容を伝え、信頼してもらうために欠かせません。名刺を作る際は、事業の内容が伝わりやすく、相手が連絡するときに必要な情報が入手しやすいデザインを心がけましょう。

・印鑑

事業用の印鑑は、取引先と契約を交わす際に必要となります。なお、個人事業で必要となる印鑑は、「実印」「角印」「銀行印」の3つです。

・事業用の口座

個人の生活費を管理する口座とは別に、事業用の口座を用意すれば収益と支出の管理がしやすくなります。経理作業の効率を上げるためにも、事業用の口座は用意しましょう。

・法人向けクレジットカード

個人事業主の方は、事業用の口座と合わせて個人事業主でも作成が可能な法人向けクレジットカードを用意しておくことをおすすめします。法人向けクレジットカードは、通常のクレジットカードに比べて、個人事業主の方でも審査に通りやすいことが特徴です。

ポイント

  • 開業する際は個人事業主と法人の違いを知り、どちらで開業するのかを選ぶ
  • 開業する前に事業計画を立てて事業の方向性を定める
  • 個人事業主の開業資金の代表的な調達先は、「政府系金融機関」と「地方自治体の制度融資」が挙げられる
  • 個人事業主として開業するために、資格や許認可が必要な業種がある
  • 開業前に営業ルールを作り、事業運営に必要な備品を揃える

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